盛岡東大通商店街
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■ビックコミック23号(2010.12.10)
2010年12月10日発売、ビックコミック23号、連載コラム「太田和彦のイケイケ居酒屋」第65回「盛岡・櫻山横町の巻」で、当商店街が紹介された記事です






太田和彦(おおたかずひこ)
昭和21年生まれ。
1000軒以上の居酒屋を訪問。
最新刊「月の下のカウンター」(本の雑誌社)は、初のエッセイ。


台の東一連鎖街なき後、おいらが日本一の飲み屋横丁と断じるのが盛岡・櫻山神社参道の飲食店横丁だ。正式名称はないようで、ここでは便宜的に櫻山横町としよう。
 盛岡市の中心・県庁前から一の鳥居をくぐった、亀が池・鶴が池の囲む内丸という場所が素晴らしい。二の鳥居を抜けると櫻山神社の正面拝殿、その奥は盛岡城址だ。
 ここは戦後引揚者らに提供されたのが始まりで、今は三筋の横丁におよそ九〇軒が木造二階に連なる。有名な盛岡じゃじゃ麺の元祖「白竜(パイロン)」もここだ。戦後の雰囲気を残す車の通らない横丁は、飲食店だけでなく薬局、花屋、商店などもある健全な地域だ。居酒屋老舗「中津川」「茶の間」などに加え、最近若い人の店が増え、郷愁にとどまらない活気が生まれて楽しい。

ヶ池側の筋の「陽(SUN)」はまだ開店一年くらいだが、宮古直送魚貝に日本酒の揃えがみごとだ。南部杜氏の故郷・岩長の「堀米・純米酒」のお燗に超新鮮ホヤ・牡蠣酢が良く合う。切れ味の清々しい若いマスター小林君に丸顔が優しいお姉さん、ツッパリ髪が威勢の良い若者の三人は息がぴったりだ。
 真ん中の筋の「ハタゴ家」は、おでんに旬の魚・山菜の典型的な居酒屋。一品ごとに小皿で出すおでんはすべて一皿百円。二階座敷もまことに居心地良く、上から
「オーイ、酒追加!」と大声出すと、すかさず「ただいま!」と即答して階段をかけの上がってくるのが、常に頭タオルの威勢のよいマスター工藤君だ。

が池筋の「Mass」は、古い二階家を吹き抜けホールにした開放感がいい。南欧風の明るいベージュ土壁に日本の古家具や小道具を置いたセンスは巧み。昼はかまどで炊くご飯の定食が人気で、夜は階段上の座り座敷で宴会もできる。
 カウンターにはめ込んだガラス蓋のネタ箱には旨そうな刺身が。
 「シラウオとカレイ」
 「はい」

 素直な返事はどこか童顔のイケメン阿部君。モテそうだな。
 「ぜーんぜん!」
 隣の同僚がまぜっ返す。古い銅の循環式燗付器は清酒「岩手川」の蔵にあったものだそうで、下に炭火を入れて蛇管を温め、コックをひねると熱燗が出てくる。
 
「こりゃいい。花見の時にこれで、酒はいらんかね〜と、行商だ。」
 「いいですねー」

 もうひとつ、真ん中筋の「櫻山ぶどう園」は木造りの落ち着くワインバー。
「赤、ジューシーなのを」と頼んだ一杯は注文通りでたいへんおいしい。
シブイ兄貴分のようなマスター・チミさんは自分の家庭菜園の野菜を店で使う。

の楽しい櫻山横町が今、存続の危機にさらされている。盛岡市はここをすべて撤去して更地にし、土塁を築く計画を発表した。市民が、観光客が毎日の楽しみにやってくる場所を壊して、人を寄せ付けない土塁で囲むのに何の意味があるのだろうか。土地の生産性はゼロだ。
 外国に行くと名所や観光レストランよりも、こわごわ案内された地元の酒場での一杯が、一番の思い出になることがよくある。この横丁がそれだ。宿泊客が安心して「地元の居酒屋で一杯」ができる横丁は大きな観光経済資源で、むしろ積極的に盛岡名物として、このまま充実維持するべきだ。
 盛岡の誇るべき歴史遺産、日本最後の昭和横丁を、人の来れない淋しい場所にするのは財産の損失だ。絶対に反対だ。

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